セックスレスといっても、夫婦のスキンシップがまったくなかったわけではなかった。
朝、仕事へ行くときには「いってらっしゃい」のキスをする。
わたしがキッチンで料理をしていると、夫はよく後ろから抱きしめてきて、そのまま胸を触ったりもした。
わたしは胸が大きくて、若い頃はそれがコンプレックスでもあったのだけど、夫はわたしの胸が好きだったみたいで、とにかくよく触ってきた。
キスもなければ、服を脱がせる気配もない。服の上から胸をもてあそび、やがて満足したようにわたしの体から手を離す。
その行為の先に、セックスは存在しなかった。
触られるたびに、虚しくなった
夜、ベッドに入ると、夫はパジャマの上からわたしの胸を触った。ときにはブラをずり上げて、直接肌に触れる。
最初の頃は、ここから始まるのかもしれないと期待していたけれど、何度繰り返しても、それ以上のことは何も起こらなかった。
ただもみしだくだけではなく、先端をもてあそんで、そして胸に手を添えたまま、安心したように眠ってしまう。
本来なら快感を与えられるはずのその愛撫に、わたしの胸の奥はぎゅっと締め付けられる。
自分の「触りたい」という欲求だけを満たして寝入ってしまった夫の横で、わたしは反応してしまった自分の体を認識する。
規則的な寝息に、すっかり夫が眠ってしまったことを確認して、わたしは静かに自分を慰めた。触って欲しい、満たされたい。虚しい。
なんでしないの? わたしはしたいよ。求められたい。
こんな思いをするくらいなら、触られないほうがマシだと思うのに、一方で、胸だけでもいいからその体温を感じていたいわたしもいた。
そんな矛盾した気持ちを抱えながら、いつもやりきれない思いを抱えながら眠りについた。
日常にある夫婦のセックスに憧れて
もう叶わないけれど、わたしにはずっと憧れていたことがある。
夫婦で一緒にベッドに入って、自然にセックスが始まること。
料理をしていたら後ろから抱きしめられて、キスをして、そのままお互いを求め合ってしまうこと。
休日の朝、目が覚めるとわたしの寝顔を愛おしく見ている ”夫” がいて、どちらからともなく始まること。
特別なことじゃなくていい。
「今日する?」なんて確認する必要もなくて、どちらかが一方的に求めるのでもなく、自然に、お互いが触れたくなって、求め合う。
わたしは、そんな夫婦のセックスに憧れていた。
もう叶わない今になっても憧れているけれど、想像する相手は夫ではない。
夫とのセックスを望むことは、もうなくなった。

