田下くんは、わたしより4歳年下の職場の後輩だった。
高身長のイケメンで、以前、NHKの朝ドラで、有名な妖怪漫画家を演じていた、あの俳優にどことなく似ている(とわたしは思っている)。
部署は違ったのだけれど、なぜか田下くんとわたしは仲良くなった。わたしによく懐いてくれていた、というか。
わたしを見つけて駆け寄ってくる姿が、まるで飼い主を見つけた犬みたいだなと思ったことがある。尻尾をブンブン振っているようで、それがすごく可愛かった。
夫と付き合うよりも前から仲がよく、二人で飲みに行ったり、わたしのひとり暮らしのアパートにきたことも何度かあったけれど、わたしたちの間に何かがあったわけではない。
男女の関係ではなく、あくまで可愛い後輩だった。
その後、田下くんは転勤になり、会う機会もほとんどなくなった。その間に、わたしは夫と結婚した。
久しぶりの再会
ある日、いつものように会社へ行くと、田下くんがいた。
わたしを見つけると、以前と変わらない様子でこちらへやってきて、みんなに配っていたお土産のお菓子をひとつわたしに手渡してくれた。
「戻ってきたの!?」転勤先から戻ってくることを知らなかったわたしは驚いた。
「はい、林さんには内緒にしてました」と田下くんはいたずらっぽく言った。林はわたしの旧姓だ。
「なんで? 言ってよ」とわたしも笑いながら返すと「林さんも結婚のこと教えてくれなかったじゃないですか」と言われた。
夫と付き合い始めた頃、既に転勤先にいた田下くんに話の流れでそれを伝えると、すごく嫌味なメールが返ってきて、それ以降はなんだか恋愛の話をするのを躊躇していた。
結婚のことは、社内報が出るよりは先に伝えたけれど、それが遅すぎるというクレームだろうと受け取った。
飲みに行きましょう
当時は今ほど社内のセキュリティもうるさくなく、仕事の合間に社内メールで雑談することも珍しくなかった。
転勤していた間も田下くんとはたまにメールのやりとりをしていたけれど、再会してから、また以前のように頻繁にメールで話すようになった。
そんな中で「また飲みに行きましょうよ」と田下くんに誘われた。
夫になんて言おう、と一瞬だけ迷ったけれど、「いいよ、行こう」と答えて、すぐに日程が決まった。
夫には「会社の友達と飲みに行ってくる」と伝えた。

