突然の言葉に、わたしは返す言葉を探していた。
結婚しているのだから、NOと言えばいいだけのはずなのに、簡単なことなのに。
それを口にできずにいた。
「キスしてもいいですか」その言葉が嬉しかった。甘えてしまいたかった。
答えを出せないまま黙り込んでいると、田下くんは気まずそうに「……すいません。結婚して幸せな人に、こんなこと言って」と少し笑った。
「幸せな人に…」
その言葉が胸の奥に突き刺さる。ぐっとわき上がってくる感情に、瞬発的に涙があふれる。
「……幸せじゃない」
わたしは明確に、自分の意思でその言葉を口にした。田下くんが受け止めてくれることを分かっていて、甘えてしまった。
目次
はじまりのキス
田下くんは驚いた顔でわたしを見て、「え?なんで??」と聞いたけれど、わたしは「幸せじゃないよ」と繰り返しただけだった。
セックスレスのことなど言いたくなかった。
田下くんは、それ以上何も聞かず、泣いているわたしを抱き寄せた。ぎゅっと抱きしめて、何度もわたしの頭を撫でてくれた。
大きな腕にすっぽりと包まれると、わたしは自分の体の力が抜けていくのを感じた。心がほどけていった。
わたしの耳が、ドクッドクッと田下くんの鼓動を感じている。「すいません、胸の音うるさいですよね」と優しく笑った。
わたしも小さく笑ったあと、田下くんの服が涙で濡れてしまうのが気になって、顔を離し、体を起こした。
田下くんの顔がゆっくり近づいてくる。わたしは拒まなかった。

