#13 “友だち以上、恋人未満” から突然 動き出した関係

田下くんとの約束の日。わたしは少し胸がはずんでいた。

以前、わたしは田下くんのことを少しだけ意識していた時期がある。

そして田下くんも、もしかしたらわたしのことを好きなんじゃないか、そんなふうに思ったこともあった。

でも、二人きりで過ごすことは何度もあっても、恋愛に発展するようなことは何も起こらなかった。

古臭い言い回しだけれど、わたしには “友だち以上、恋人未満” のような関係に思えていた。

でも、年下の田下くんにとっては、これくらいはただの「友だち」の範疇なのかもしれない。

20代だった当時のわたしにとって、「4歳年下」という年齢差は、今よりずっと大きく感じられていた。

目次

久しぶりの心はずむ時間

待ち合わせをして、二人で居酒屋に入った。

久しぶりということもあって話は尽きず、お酒を飲みながら他愛もないことで笑った。

田下くんと話している間は、結婚生活の悩みも、重く暗い気持ちも忘れられ、何も考えずに笑っている。

独身時代のわたしに戻ったようで、久しぶりに心が軽かった。

居酒屋を出ると、二人でカラオケへ向かった。これもわたしたちの定番のコースだった。

居酒屋にカラオケ、わたしにとっては昔と変わらない、田下くんとの楽しい時間だった。

そうやって笑いながら、わたしは「あの家に帰りたくないな」と心の中で思っていた。

思いがけない言葉

入れていた曲もすべて終わり、退室の時間が近づいていた。

ここを出たら、また現実に戻らなければいけない。

今までの騒がしかった部屋は一気に静かになり、そのとき、田下くんが思い詰めたような表情をしていることに気づいた。

その表情の理由を考える隙もなく、田下くんはわたしのほうも見ずに言った。

「林さん、キスしてもいいですか?」

「え…」一瞬、何を言われたのかわからなくて、言葉が出ない。胸がドクンと鳴って、頭の中がフルスピードで回り出す。

言葉を失ったわたしに田下くんが続ける。「僕は、それで諦めますから」

その言葉を聞いた瞬間、これまで田下くんと過ごした、かつての時間がよみがえる。

あれは、わたしの勘違いじゃなかったの? どうして今になって…

キスしてもいいですか、田下くんの言葉が頭の中でリプレイする。

まるでアニメのシーンのように、わたしの中の天使と悪魔がせめぎあっていた。

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