結婚して1年がたっても、まだセックスは一度もなかった。
話し合いもしたし、感情をぶつけたこともある。
そのたびに夫は「変わるから、ごめん」と言ったけれど、結局なにも変わらなかった。
イビキをかいて気持ちよさそうに眠る夫の隣で、私は何度、ひとりで泣いただろう。
ひとりで性欲を満たす夜もあった。でも快楽のあとには、むなしさと悲しみにおそわれた。
抱かれたい。求められたい。
どうしてこんな結婚を選んだのか、何を間違えたのか、考えても答えは出ない。
レスられ妻の私に義母からの孫催促
夫の両親と私の関係は、表面上は穏やかだった。
義母は、裏表のない性格で、気さくといえば聞こえはいい。でも、少し無神経で、思ったことをそのまま口に出してしまう人でもある。
だけどそのときの義母は、恐らく意を決してそれを口にしたのだろう。
「子どもはまだなの?」
夫の実家で一緒に夕飯を食べたあと、義母と並んで食器を洗っていたときだった。
夫が近くにいないのを見計らったんだろう。
「あなたも年齢のことあるんだから、仕事も大事だと思うけど……ねぇ?」
無神経な義母もさすがに、その話題は慎重になっているようではあった。
子どもなんて… 私にどうしろっていうの
だけど…(私のせいだと思ってるんだ)、と直感的にわかった。
何もしらない義母や、セックスしない夫への怒りで一瞬に心が覆われ、ふるふると体の奥が震えるようなそんな感覚だった。
感情が溢れて涙が出そうになるのを必死にこらえた。
子どもなんてできるわけないじゃない。この状況で!
「◯◯くんに聞いてください」
怒りを押し殺したひきつった作り笑顔でそう答えるのが、精一杯の反抗だった。
一瞬 黙った義母を置いて、私はトイレに向かった。
こぼれた涙は、かろうじて義母に見られることはなかったと思う。
レスり夫への怒りが止められない
その夜、夫に義母とのやりとりを話すと、彼は一瞬だけ黙ったあと、小さく「……ごめん」とつぶやいた。
またそれ… いつもの「ごめん」を聞いて、私は限界だった。
「なにが?なにがごめんなの……っ」
言った瞬間、涙が出てきて止まらなかった。
「なんで私ばっかりこんな想いしなきゃいけないの!」
セックスレスなんだから子どもなんてできるわけがない。
なんで私が責められなきゃいけないの?
あなたのせいじゃない!!
嗚咽混じりの声は、たぶん聞き苦しかったと思う。けど止められなかった。
夫は、しばらく黙っていたあと、スマホを取り出して母親に電話をかけた。
「……母さん、俺だけど。今日、◯◯(私)が子どものことで言われたって聞いた。……もう言わないでくれ。言うなら俺に言って。全部、俺のせいだから」
その声は、困り果てたような、観念したようなそんな声だった。
電話を切った夫は、ソファに座り込んで黙り込んでいた。
怒っても意味がないとわかってるのに…
夫が義母に電話をしたそのことよりも、その意気消沈した姿に、私はイライラしていた。
落ち込んでる暇があったら、なんとかしてよ。変わるって言って、何も変わってないじゃない。
優しくされても、謝られても、もうそれってなんなの?もう嫌だ。
こんな風に怒って責めても逆効果だってわかってる。
分かっているけれど、抱えてきた寂しさと絶望は怒りに姿を変えてしまった。
なんでこんなことに… 私は、ただ、女として、抱かれたかっただけなのに。辛い。消えたい。